ろんせん日記

しがない大学生ろんせんが読んだ本、行った場所をちょくちょく紹介するブログです

高橋和巳『邪宗門』は想像以上に”やばかった”

今回は『東大教師が新入生にすすめる本』というブックリストから、今回は高橋和巳著『邪宗門』をチョイスしました。

 

 

東大教師が新入生にすすめる本 (文春新書)

東大教師が新入生にすすめる本 (文春新書)

 

 

このブックリスト、良いですよ!

「本読みたいけど何読めばいいかわからない(けど失敗したくない…)」

という方にはもってこいです!

 東大教官がすすめる100冊: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

↑僕が日頃参考にさせていただいている『スゴ本』さんがまとめた記事もオススメです。ぜひ!

 

 

さてさて本題

 

 

高橋和巳邪宗門

◆読了時間(まとめ含む)

20時間程度でした。正月休みでまとまった時間が取れたこともあり、テンポ良く読めたので、普段の生活でしたらより時間はかかったと思います。

◆重さ

分量は上下巻合わせて約1200ページでした。

◆評価(5段階)

★★★★★

詳細は下記の通りですが、とにかく読み応えがあります。テーマが幅広く、一言では表せないボリュームです。なかなか他の小説にはない、という点で最高評価をつけさせていただきました。

◆こんな読者におススメしたい

しっかりアタマも使う、本格的な小説を読みたい!という方に是非!

◆感想

ヤバイです、この本

久しぶりに時間を忘れて読み続け、そして読み終わった瞬間に「おお」と溜息が出る本でした。

 

本作は大まかに三部に分かれており、 「ひのもと救霊会」という架空の新興宗教団体が昭和の戦前期から戦後にかけてどのように弾圧され、復興し、そして壊滅していくのかが描かれている。

…一言でまとめるとこうなのでしょうか?

 

しかし「本当にフィクションなのか?」「実在する人物、団体なのではないか?」
と思わせるくらい、登場人物1人ひとりが深く描かれています。

 

なかでも千葉潔は作品全体を覆うニヒリズム概念の象徴的存在であり、物語を終局に導く主人公たる登場人物です。

戦前の東北地方で起こった大飢饉による飢餓状態において、自らの母の死体を食べたことで生き延びた主人公。母の遺志を継ぎ、ひのもと救霊会によって保護されるが「本来生き延びてはいけない中で生きてる」という罪意識に苛まれつづける。

彼の三十年間の伴侶はただ飢えと苦痛だけだった。むろん彼の記憶の灰色の幕にも、人の慈悲に胸つかれ、なにかの喜びに胸ふくらんだ一齣一齣も映らぬわけではなかった。(中略)だが彼に報恩すべき地盤がなかった以上、それは常に負債にしかなりようはなく、結局は心のしこりとなった。感謝の念は返礼しうる余裕のある者の感情なのだ。

 

自らを育てた者への愛着畏敬と死霊恐怖が結合してやがて祖先崇拝となり、部族神の崇拝へと発展する……その宗教の根本において彼は阻害されていた。彼は禁忌たる死肉を食い、愛の宗教の母体であるものの犠牲の上に生きのびた。生きのびること自体が罰せられた存在であることであり、人並みの生活を望み、人並みの幸いを求めて、意識の中から恐ろしい記憶を排除しようとすることで、彼はすべての宗教の基礎をなす感情をいつしか失わねばならなかったのだ。

 

 貧者とは何ぞや、支配されるものなり
支配とは何ぞや、悪業なり
悪業とは何ぞや、欲望なり
欲望とは何ぞや、無明なり
無明とは何ぞや、執着なり
ああ、如何にして執着をのがれんや、ただ信仰によってのみ
信仰とは何ぞや、救済なり
救済とは何ぞや、死なり
死とは何ぞや、安楽なり
誰が誦するともなく、門外不出の奥義書がとなえられはじめた。そう、千葉潔がその政治主義を救霊会にもちこむまでもなく、救霊会は確かに〈邪宗〉だった。淫祠邪教の故に邪宗であるのではなく、窮極において、この世を信じえず享楽しえない人々の集団であるゆえに。

 

 

上記の部分以外にも政治、歴史など様々なテーマを秘めており、一言では紹介しきれない作品です。

 

 

分量は相当ありますが、「2018年最初にこの本に出会えてよかった。」と思える作品です。

 

是非是非!

 

 

邪宗門 上 (河出文庫)

邪宗門 上 (河出文庫)

 

 

邪宗門 下 (河出文庫)

邪宗門 下 (河出文庫)